管理人の論考

アウトドアの保険

ーアウトドアスポーツに必要な保険についての個人的見解、後悔しないためにー

個人賠償責任・捜索遭難・医療の保険は標準装備に!!

ぼくは、これまでに3つの登山事故裁判に直接コミットした。特に、神崎川事故裁判では約一億五千万円を請求される被告だった。この間の経験から、ぼくはアウトドアの保険について以下のように考えている。

1. 個人賠償責任保険捜索遭難保険に必ず入るべきだ。

2. 傷害保険はケガにしか対応していない。医療保険が必要だ。

3. 生命保険への加入は家族への責務であるし、できれば所得補償保険も検討すべきだ。

とりわけ、個人賠償責任保険は重要だ。もし、あなたが山に連れていってもらう立場ではなくて、リーダーをつとめたり自分より経験の低い人と山に行く立場にいるなら個人賠償責任保険だけは欠かせない。なぜなら、この保険があれば、あなたが損害賠償請求訴訟の被告になったとしても、あなたは強力なサポータ-を得た事になるからだ。

わずか年間2000円程度の保険料で、個人賠償責任保険は、裁判や和解で発生する弁護士費用と裁判所があなたの法的責任を認めた場合の1億円までの賠償金を用立ててくれる「現代社会のお守り」である。

想像してみて欲しい。以下のような事態があなたの身の上に起こる可能性はかなりあるのだ。


夏のある日、あなたが、学生時代の友人Aさんと剣岳に登ったとする。あなたはかつてワンダーフォーゲル部にいて、主な3000m峰はすべて登っている。剣岳は今回が3回目だ。しかし、卒業後はフリークライミングに熱中して登山はしていない。Aさんの登山経験は夏の富士山登頂の一回だけある。クライミングの経験はない。

事故はカニの縦ばいで発生した。あなたたちの少し先にいた登山者がうっかり落石を発生させてしまったのだ。サッカーボール大の岩はAさんの頭部を直撃した。Aさんのすぐ後ろを登っていたあなたはAさんを支えようとする。しかし、うまくいかず、2人とも転落してしまった。あなたたちは民間ヘリによって病院に搬送される。あなたは両足複雑骨折。数カ月の入院を余儀なくされた。Aさんは最悪の結果となった。その日の剣岳は快晴無風。まさに登山日和だった。

Aさんのご両親の悲しみは、やがて、激しい怒りに変わった。ご両親は危険なスポーツにはもともと大反対で富士山の時も猛反対していた。どうしても剣岳に登りたかったAさんは「剣岳はハイキング程度の山。それに登山の大ベテラン (あなたのことである)と一緒だから絶対安全」と言って両親を説得していた。ご両親は、あなたは「リーダー」であり、事故原因はあなたの注意義務違反であるとし損害賠償請求訴訟を提訴した。請求額は1億円である。

職場復帰をめざしてリハビリ中のあなたに訴状が届く。あなたの預貯金は1億円にはとても足りない。医療費を支払ったので手持ちの預貯金は50万円なのだ。へリコプター会社からの請求書もまだ届いていない。「事故は他人事で自分とは無縁」と、思っていたあなたは自動車保険以外には一切保険には入っていない。

あなたにはへリコプター代の約50万円/1時間が発生する。しかし、あなたはまだ幸運だ。捜索が何日にも及び民間の救助隊も出動すれば、捜索救助費用は数百万円になることもあるのだから。

あなたは約2年間程度を民事裁判の被告として過ごす事になる。もちろん、あなたには弁護士費用も発生する (弁護士に依頼せず本人訴訟なら不要だがこれはかなり困難なチャレンジだ)。たとえ、裁判所があなたの法的責任を否定したとしても、弁護士費用は必要なのだ。この場合、弁護士費用は理論的には1000万円まで可能らしい。ただしディスカウントは期待できる。たとえば、事故は、参加者の中で沢の経験が一番豊富で現場にも行ったことのあるぼくの責任だとして、一億五千万円が請求されたケースでは、裁判所はご遺族の請求をすべて棄却したが弁護士費用は約350万円弱が発生した。


ぼくは、連れて行ってもらう側の人も、個人賠償責任・捜索遭難・医療の保険は標準装備にした方が良いと考えている。もしあなたが、落とした落石で誰かがケガをしてしまったら、場合によっては、あなたは賠償金を支払わねばならないかもしれないし、仮に、法的責任はないと裁判所が判断したとしても、弁護士費用は必要だからである。

具体的に保険and/or共済をどう設計するか

個人賠償責任・捜索遭難・医療の保険は標準装備に!! 」「リーダーをつとめる時や自分より経験の低い人と山に行く時は個人賠償責任保険だけは欠かせない」「連れて行ってもらう側の人も、個人賠償責任・捜索遭難・医療の保険は標準装備にした方が良い」

というぼくの主張に、この時点で、あなたが賛同してくれたとしよう。しかし、まだ、問題が残っている。

それは「保険and/or共済をどう設計するか」だ。より具体的には、どの保険、あるいはどの共済と契約するのか、どのタイプを選び、これらをどう組み合わせるのか、ということである。保険金をケチって後悔するよりはマシとしても、保険に入り過ぎて山に行くオカネがないというのは悲しい。

本来なら、ここで自信をもって奨められる具体的なプランがあればいいのだが、ネットで調べてみて、ヒットした膨大な情報量に、ただただ圧倒されてしまった。どうやら、ぼくは、むしろ教えを乞わねばならない立場のようだ。

とりあえず、以下のリンクを見ていただければ、かなりのことがわかると思う。

セブンエー 木村総合保険事務所 労山遭難対策基金 都岳連山岳共済 モンベル:傷害総合保険 日山協会山岳共済

スポーツ安全保険 全労済 CO-OP共済 県民共済 レスキュー共済  レジャー・旅行保険の121保険(東京海上日動・ジェイアイ代理店)

いくつかの注意点

すでに述べたように、ぼくは保険と共済についてはそれほどには詳しくない。しかし、いくつか知っている事もあるので、以下に箇条書きにしておきたいと思う。ただし、あくまでも参考程度にしてもらって保険会社などに直接確認してほしい。

1. たとえば、あなたが、登山ツアーやクライミング教室のアシスタントをアルバイトでしいて、不幸にも事故が発生して、あなたが賠償金を請求されたとしよう。この場合は、あなたが加入している個人賠償責任保険は無力だ。あなたは、弁護士費用も賠償金も自分で支払わなければならない。

2. 免責事項はしっかり読もう。なぜなら、免責事項とは、わかりやすくいうと「以下の場合は、保険金は支払いませんよ」と言う意味だからである。

3. 保険の契約切れは要注意である。登山にでかける前に必ず確認しておこう。これはぼくの苦い教訓である。

4. 傷害保険はケガにしか対応していない。言い換えると、あなたの死因が「病死」と判断された場合は保険金が支払われないと考えておくべきである。

5. 例えば、あなたと友人が遭難して救助費用が200万円かかったとする。あなたは、捜索遭難保険は未加入。友人は加入していて200万円まで支払われる。「ラッキー」とあなたは思うかも知れない。しかしそうはならない。保険会社は友人の分の100万円しか支払わないだろう。あなたは100万円を自分で支払わねばならない。

6. 個人賠償責任保険は、法的な責任があった場合にのみ支払われる。したがって、いくらあなたが「この事故は私に責任がある。どうか払ってあげて下さい」と主張しても、「客観的に見て法的責任がある」と保険会社か裁判所が認めない限り、保険金はいっさい支払われない。言い換えると、個人賠償責任保険は「お見舞金」ではないということである。

7.もしあなたがケガをさせられた側の時には、実は、弁護士保険 (権利保護保険)という商品がある。これは、訴える側の弁護士費用を支払う保険だ。ただし、まだ、運用が始まったばかりで、登山事故の訴訟には使えないかも知れない。

以上


上記の論考は2006年のものです。2017年現在、かなり事情が変わった点もあろうかと思います。その点、くれぐれもご注意下さい。

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