裁判例

あるパラグライダースクール事故 一審判決の抜粋

以下は、「パラグライダースクールに参加した初心者が落下して重傷を負った事故につき、指導員の安全配慮義務違反とスクールを運営した主催者の安全配慮義務違反ないし使用者責任を否定した事例」の判決抜粋です (当該判決は未公刊。裁判当事者の方のご好意により入手したものです)。

この判決には、2点の特筆すべき点があります。1.営利引率型 (辻、1999) に分類される有料講習会において、いわゆる「危険引き受けの法理」を適用している、2.同意書に一定の法的効力をみとめている、です。

判示内容の重要性に鑑みて、正確性よりも迅速性を優先し、急ぎ掲載しました。よって、誤字脱字があるかもしれません。乞御容赦。なお、この掲載は暫定的なもので近い将来に掲載し直す予定です。保存しておきたい方は早めにダウンロードを。

判決文を提供しいただいた有志の方に深謝いたします。なお、この判決は、控訴がなかったため一審で確定しているとのことでした。

2004.06.17記


主文

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は、原告の負担とする。

請求と事案の概略

パラグライダースクールに参加した初心者(この時がはじめてパラグライダースクール参加)が、スキーゲレンデでの3回目のフライト練習中に、林に落下して重傷を負った事故につき、指導員の安全配慮義務違反とスクールを運営した主催者の安全配慮義務違反ないし使用者責任を主張し、不法行為に基づいて約1900万円の損害賠償を請求した。

裁判所の判断(抜粋)

・・・まず一般論として、ハングライダー、パラグライダー、スキューバダイビングなどのアウトドアスポーツ(レジャー)においては、人間が自由にコントロールすることのできない自然を相手とするものであることから、常にこれに由来する内在的な危険ないし不確定要素がつきまとうことは自明の事実である。パラグライダーに即していえば、本来空を飛ぶことができない人間が、ある意味非常に原始的な器具のみを装着して自然の中に身を委ね、空中浮遊のスリルと快感を味わうことを目的とするスポーツ(レジャー)であり、そのフライトは常に危険と隣り合わせである。むしろ、その危険の中にこそパラグライダーのプレイヤーが求めるスリルと快感、自然との一体感などが存在するともいえるのであり、絶対的安全性と求める快感等とは本質的に両立しえないものといえよう・・・

もっとも、本件スクールに参加した原告は初心者であり、本件スクールは未経験者を対称にしたものであったから、上記のような一種の免責条項があるからといって、被告らの責任が当然にすべて免除されるものとは解されない(このことは、被告らにおいても認めるところである。)。しかしながら、パラグライダーの上記のような性質を前提とすれば、主催者や指導員は初心者を対象としたスクールの実施に当たり、通常要求されるような注意義務を尽くせば、予測しがたい自然状況の変化などに由来する不測の事故についてまですべて責任を負うと解するのは相当とはいえない(このような事故はその性質上不可避的に起こりうるものであるが、これを完全に回避しようとすれば、それこそそのようなスポーツ(レジャー)それ自体を否定することにつながるであろう・・・・)

原告が初心者であったことは事実であるが、いやしくもバラグライダーのスクールに参加する以上、原告はじめ参加者も少しでもパラグライダー特有のスリルと快感を肌で感じたいと思って参加しているであろうことは容易に推測しうるところであり、上記のパラグライダーの性質からすれば、ある程度の不確定要素は考慮にいれてもパラグライダー本来のフライトに近い体験をさせようとした運営者側の判断に直ちに過失があったとは認定できないというべきである・・・

本件事故は原告にとっては不幸な事態であったものの、当該スポーツ(レジャー)に内在する危険が顕在化したものというほかなく、これについて被告の過失は認定できないし、雇用主でスクールの運営者である被告会社についても過失があったものとはいえない。


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