裁判例

神崎川沢登り事故 一審判決文

2000.12.08

平成12年12月8日判決言渡 同日判決原本領収 裁判所書記官
平成10年(ワ)第○号 損害賠償請求事件
(口頭弁論終結の日 平成12年9月5日)
判決
(ここにに原告・訴訟代理人・被告住所氏名が記載。略した。)

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一 原告らの請求

(ここに請求金額など記載。略した。)

第二 事案の概要

原告らは、後記の沢登り中に発生した事故により、◇◇(以下、Aという)と□□(以下、Bという)が死亡したことについて、被告に、リーダーとして事故を事前に回避し、あるいは事故発生後にAらを救命すべき義務を怠った責任があるとして、不法行為に基づく損害賠償を求めている。

一 争いのない事実等

1当事者等

(ここにA、B、および被告の職歴・血縁関係など記載。略した。)

2本件事故

被告、X(以下、Xという)Y(以下、Yという)Z(以下、Zという)、A及びBの6名は、神崎川(愛知川の上流部)で沢登り(沢登りであるか川遊びであるかは後記のとおり争いがある)をするため、平成10年○月○日午前11時30分頃、神崎川発電所の付近を出発し、徒渉したり泳いだりしながら神崎川を遡行し、同日午後零時過ぎ頃、事故現場の地点を左岸から右岸に徒渉しようとしたが、徒渉中、A及びBが倒れて水に流され、約15メートル下流の高さ5メートル程の滝に転落し、滝壷の渦に巻込まれる状態となり、その後、下流に流されて他のメンバーに引き上げられ、人工呼吸等の救命措置を施されたものの、功を奏さず、溺水により窒息死した。

二 争点

本件事故に至る経過及び事故の態様、ことに、
(1)当日の計画は沢登りであったか川遊びであったか。
(2)増水の程度及び事故現場の水深
(3)徒渉の態様
2被告はリーダーであったか否か。
3被告がリーダーであったことを前提として、結果回避のために何らかの措置をとるべき義務があったか。ことに
(1)計画を中止すべきであったか。
(2)ロープを携行すべきであったか。
(3)徒渉地点の選択及び徒渉方法に誤りがあったか。
(4)人工呼吸の方法に不適切な点はあったか。

第三 判断

一 本件事故に至る経過及び事故の態様について

(ここでは、証拠が列挙されている。略した。)

(一) 参加メンバーの関係など

(ここでは、被告が代表をつとめるクライミングジムと参加者たちとの関係を解説。略した。)

(二)沢登りの計画など

(ここでは予定が決まるまでの経緯が記述されている。略した。)

X、Z及びBは、平成10年X月X日、Ωとともに、神崎川上流部での沢登り(三重県側の朝明渓谷から入り、羽鳥峰峠を経て神崎川上流部に出て、白滝谷から引き返すルート)をした。

(予定が決まるまでの経緯が記述されている。略した。)

また、翌日(事故の日。宗宮註)は天候不順が予想されたので、雨の場合は、近郊の岩場に行って岩登りをすることも想定し、沢登りと岩登りの両方の用意をして、午前8時にクライミングジムに集合することを打ち合せた。

同日夜10時頃、右沢登りの計画を伝え聞いたBからXに電話があり、BとAも翌日の沢登りに参加したい旨の申し入れがなされた。Xは集合場所と集合時間を伝えるとともに、被告に連絡を取るように話し、自らも被告に電話をして、Bらが参加したいと一言っている旨を伝えた。しかし、Bらから被告に電話はなかった。

(三) 当日の経緯

同日午前8時頃、当初からの参加予定者4名の外、A及びBもクライミングジムに集合した。当日の天候は曇りであり、全員の意向で、神崎川に行くことが決まったが、当日の計画は、神崎川発電所を出発して行けるところまで行き、食事をして帰るという程度のものであり、事前に地図や計画書を用意してコースの内容を全員で検討したりすることはなく、装備についても、各自がそれぞれの経験から準備したもので、装備の内容や程度はまちまちであった。

被告らは、同日午前8時頃、2台の車に分乗してクライミングジムを出発し、途中のコンビニエンスストアで昼食用のおにぎり等を購入し、同日午前時11過ぎ頃、出発予定地である神崎川発電所付近に着いた。

到着した頃、強い雨が降っていたので、車中で止むのを待ったが、まもなく雨が上がったので、それぞれが車から出て装備を整えた。(ここには準備の様子などが記載されているが略した。)Yはライフジャケットを着用しており、被告はライフジャケットを、持参してザックに入れていたが、他の者はライフジャケットを持っていなかった。

同日午前11時30分頃、一行は、神崎川発電所付近を出発し、徒渉したり泳いだりしながら遡行し、午前12時過ぎ頃、事故現場に着いた。

(4) 事故の状況

一行は、左岸を進んでいたが、岩のためにそれ以上進めない状況であったので、事故現場を徒渉することになった。

(中略)

徒渉地点は、A及びBが転落した滝より15メートルほど上流の地点であり、幅員が5メートルほどで、下流寄りには水流を遮る状態で大きな石が2つあり、その上流奇りには河床に2つほどの中位の石があり、さらに上流寄りは少し深くなっていた。当日は、前々日に降った雨の影響で増水しており、右の大きな石は、その表面が水面から少し隠れた状態であり、上流寄りの最も深いところの水深は1メートルほどになっており、流れも速かった。

徒渉にあたり、被告、A及びBの3名が協議し、下流側で女性3名の徒渉を援助する態勢をとることとなり、まず被告が川を渡って対岸近くで待ち、AとBは、前記大きな岩のやや上流寄りに、上流を向いて立ち、女性3名が無事徒渉を終わるまで待つ態勢をとった。その後、女性3名がX、Z、Yの順で、XはA及びBが立っている位置よりも少し上流寄りを、ZはXより数メートル上流寄りを、それぞれ歩いて渡り、Yは、両者の中間付近を、途中まで歩いて途中から泳いで渡った。Yが渡り終わった頃、原因は不明であるが、A及びBが水中に倒れ、そのまま下流に流され、滝壷に転落した。

A及びBは、滝壷の渦に巻込まれる状態となったが、Bはまもなく下流に流され、泳ぎの得意なZが流れに飛び込んでBの後を追った。Aは、その後も、渦から脱出するため滝つぼの脇の岩を掴もうとして、滝壷の中で回っている状態であったので、被告がライフジャケットを着けて滝つぼに飛び込み、何度かAの手を握ろうとしたが、水流が強く、Aと手を握りあわせることができないうちに、被告自身も下流に流されてしまった。

また、Xは、滝壷の上からAに対し、岩を掴もうとせず、下流に行くように何度も叫び、また、自らのザックを投げ込んだりしたが、そのうちAは力尽きて下流に流された。

その後、下流の流れの緩い場所で、ZがBを河原に引き上げ、また、さらにYが呼んできた中年の男性がAを引き上げ、既に意識を失っていた2人に対して人工呼吸と心臓マッサージを施した。Aに対しては、主に右男性とYが、Bに対しては被告とXが、それぞれ人工呼吸等を実施し、Zは出発地点から車で電話のあるところまで戻り(携帯電話は電波が届かなかった)救急車を呼んだ。

同日午後2時頃、救急隊員と警察官が現場に到着したが、既に2人は脈のない状態で、その後も人工呼吸を続けたが蘇生しなかった。同日午後2時30分頃、ヘリコプターにより、AとBは病院に搬送されたが、結局、溺水により死亡した。

2 以上の認定に関して、若干補足して説明する。

(1) 沢登りか川遊びか。

(ここで、本件の被告らの行動は、被告側の主張する川遊びというレべルではなく、初級程度の沢登りであったと判示した。)

徒渉の態様について

(ここで、徒渉の態様は「女性3名が徒渉する際に、倒れたり流されたりする危険を考慮し、体力のある男性3名が、A上流側にいて女性の徒渉を援助しようとしたものに他なら」ないとし、「他方、原告らは、前記のとおり、男性3名が女性3名の徒渉を補助する態勢をとることについては、被告が指示命令したと主張し、甲8号証の調査嘱託回答書には、被告が右のような提案をした旨の記載があるけれども、右記載だけで、被告の指示命令を認めるには十分でなく、他に原告らの主張を認めるに足りる証拠はない。」とした。)

(3)増水の程度及び水深について

(裁判所は、証拠から「事故当日、前々日の降雨の影響で、若干の増水があり、水流も速かったものと認められる」と判示した。しかし、水深については「少なくとも、本件の全証拠によっても、A及びBが立っていた位置の水位が、腰の付近にまで達していたと認めることはできない。」とした。)

被告はリーダーであったかについて

1.リーダーについて

まず、前提として、登山パ-ティにおけるリーダーについて検討するに、リーダーとは登山の際に生じる様々な危険に適切に対処し、登山を成功に導くために、パーティーを指揮統率する立場の者であり、リーダーは、コースの選択変更、休止、登山の中止などに関し、他のメンバーより強い決定権限を持つが、Aその反面として、危険の回避に関し、より高度な注意義務を負うものである(このようなリーダーの地位は、他のメンバーとの関係では、一種の保護者的地位ということができる)。そして、右のリーダーの権限及び注意義務の発生根拠は、リーダーとメンバーとの身分関係や、メンバー間の合意などに求められ、また、リーダーの権限の強さ及び注意義務の程度は、右の身分関係やパーティーの性格など(引率登山であるか、自主登山であるか、営利を目的としたものであるか、参加者が成年であるか未成年であるかなど)によって、自ずから異なるものである。

2.そこで、以上を前提として本件を検討するに、前記に認定の事実に証拠及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

(一)参加者の沢登りの経験等について

(この部分で参加者のアウトドア経験を認定した。概略のみを示した。)

被告は、フリークライミングに関しては専門家(プロフェッショナル)であった。しかし、沢登りについては、事故以前の約15年間に10回ほどの経験がある程度であり、また、本件事故のあった神崎川には、平成6、7年頃に2回ほど行ったことがあった。

Yは、平成8年春頃からフリークライミングを始め、週に1、2回程度近郊の岩場でクライミングをしていたが、沢登りについては、平成9年夏に被告らともに板取川で経験したことがあるだけであった。

Zは、平成九年秋頃からフリークライミングを始め、月に数回、クライミングをしていたが、沢登りについては、平成10年X月X日の神崎川上流部での沢登りが最初の経験であり、また、同年X月X日に宇賀渓での沢登りも経験していた。

Xは、平成4年頃から山登りを始め、平成7年頃からはアウトドアスポーツの企画会社の主催する登山、岩登り講習会、カヌー、歩くスキー、シャワークライミング(水遊びをしながら遡行していく種の沢登り)などに参加していた。沢登りの経験については、右のとおりシャワークライミングの企画に参加したことがあった外、平成10年X月X日に神崎川上流部に行った経験があった。

Aは、平成3年○月に消防学校を卒業して消防士となり、○○消防本部に配属されて勤務していたが、平成5年○月に潜水士免許を取得し、消防救助技術大会のロープ応用登撃の部門で何度か表彰を受けたことがあり、また、遠泳や水難救助訓練を受けたこともあった。Aは、平成10年春頃からクライミングジムに出入りするようになっていたが、沢登りの経験は一度もなかった。

Bは、以前から家族や会社の同僚らと登山をしていたが、クライミングジムには平成10年の春頃から出入りするようになって会員となり、また、沢登りについては、平成10年X月X日の神川上流部の沢登りに参加した経験があった。

(二) 計画の経緯及び当日の行動など

(1)本件沢登りは、破天荒が会員向けに主催し企画したものではなく、クライミングジムの会員らが、気心の知れた者同士として自主的に計画し、参加したものであり、営利を目的としたものではなかった。

(2)本件沢登りは、一週間ほど前から、被告やX、Yらの間で、神崎川に遊びに行くということが話し合われていたものの、予めコースや日程などについて綿密な計画が練られていたわけではなく、参加者が概ね決まったのは前日であり、装備なども各人に委ねられていた。
また、事前に、互いの沢登りの経験などを話し合って、リーダーを決める話し合いが行われたわけではなかった。

(3)当日は、天候の状況もあり、昼頃出発して行けるところまで行って帰るという程度の計画であったが、コースを知っていたのは被告だけであったので、被告がコースを先導する形で事故現場まで進行した。

3 以上の事実によると、被告は、参加者の中では比較的豊富な沢登りの経験があったこと、年齢も上であったこと(年齢を略した。)、本件事故現場のコースを知ってたのは被告だけであったことが認められ、これちの事情から、本件沢登りにおいて、被告がコースの選択等を含めて主導的な立場にあったことは否定できず、その限りでは、被告は、事実上のリーダーであったといって差し支えない(被告らが、平成10年日に、原告αらに事故状況を説明した際、Xが被告をリーダーと呼んでいたとすれば、それは右の意味で理解することができる)。

しかしながら、被告が右のような事実上のリーダーであったとしても、その注意義務の程度は、他の参加者と比較して格段に高度なものということはできない。けだし、

1.本件沢登りは、破天荒を通じて知り合った知人同士が自主的に参加したものであったこと、

2.事前の計画においては、行程や装備などが十分に話し合われたわけではなく、また、その過程で、参加者の沢登り等の経験を互いに明確にし、被告をリーダーとする旨の明確な話し合いがなされたわけではなかったこと、

3.当日においても、行けるところまで行くという程度の、柔軟な予定を立てていたに過ぎないこと、

4.これらのことは、参加者全員の意識として、本件沢登りは、比較的危険なものではなく、気軽に遊びに行くという感覚が強かったと考えられること、

5.被告以外の参加者も、Aを除いて沢登りの経験があり、ことに、X、Z及びBの3名は、2週間ほど前に神崎川で本件沢登りよりも危険度の高い沢登りを経験したばかりで、沢登りの危険性などについても一応の判断力を有していたと考えられるし、Aも消防士として通常人以上の判断力を有していると考えられたこと、

以上の1.ないし5.などの事情からすると、被告と他の参加メンバーとの関係は、被告が他の参加メンバーを引率するというものではなかったことは明らかであり、被告の負うべき注意義務の程度は、他の参加メンバーと同等か、そうでなくとも、被告が比較的豊富な沢登りの経験を有していたこと及びコースを知っていたことに対応して、他の参加者より若干高い注意能力を有しており、その限度で、若干高い注意義務を負うというにとどまるものと解するのが相当である。

三 結果回避のための措置について

前項で検討した被告の注意義務を前提として、本件事故を回避するために被告がとるべきであった措置について検討する。

1計画を中止すべきであったか。

(ここで、「計画を中止すべき段階にまで達していたとは認めることができない。」とした。)

2ロープを携行すべきであったか。

本件沢登りにおいて、被告ないし参加者のいずれかがロープを携行していれば、本件事故現場において徒渉する際に、ロープを利用することが可能であったし、また、事故発生後においても、Aらを救助する際にロープを利用する余地がなかったわけではなく、その意味では、ロープを携行することが望ましかったことはいうまでもない。

しかしながら、前記認定のとおり、本件沢登りにおいては、登器具を用いた滝の登等は予定されておらず、また、行けるところまで行って帰るという柔軟な計画であったことを前提にすると、仮に、ロープを使用しなければ徒渉できない程度に危険な場所があれば、徒渉を中止して引き返せばよく、ロープを携行しなかったことが、直ちに本件事故の結果と結びつく注意義務の違反とまでいうことはできない。

また、原告らは、Aらが滝壷に落ちた後に、被告らが滝壷の上からロープを投げていればAらを救命できた可能性が高いと主張するが、証拠(甲12号証の1ないし24、24号証、乙9、15、32号証、被告)及び弁論の全趣旨によると、滝壷の上部の安全に立てる位置から滝の落ち込み口までは少なくとも10メートル前後の距離があることが認められ、また、そのような救助方法をとること自体にも相当な危険を伴うものであるから、特別な訓練を受けているわけではない被告らにおいて、渦に巻かれた状態のAやBに対し、適確にロープを投げて救命することができた可能性が高かったと認めることも困難である。

もっとも、ロープを携行しなかった理由について、被告は、本件沢登りは川遊びの程度に過ぎず、滝の登攀などを含む本来の「沢登り」ではないと考えていたためであると供述しているところ、登攀器具を用いた登撃を行わなとしても、徒渉や水泳を行う沢登りであれば、水流に流される危険が伴うものであり、被告がロープを持参する必要がないと考えたことは、右の危険を過小に評価していたのではないかとの疑問も残り、その意味では、前記のとおり、ロープを携行しなかったことが不法行為とまでは言い切れないとしても、少なくとも安易で慎重さを欠いた態度であったことは否定できない。

しかしながら、前記のとおり、本件沢登りは、被告が他の参加者を引率するという性格ではなかったものであり、装備についても、被告が全て用意したり、指示したりするものではなく、本来、全員で協議して決めるべき性質の事柄である。したがって、ロープを持参しなかったことについては、参加者全員の責任であり、被告のみにその責任を帰すことは相当でない(ここには装備の準備についての記述がある。略した。)。

3 徒渉場所及び徒渉方法について

前記認定によると、被告ら一行は、神崎川の左岸を遡行して本件事故現場にさしかかり、岩のために先に進めない状況になって事故現場を徒渉したことが認められ、徒渉場所の選択の余地はなかったものと認められるから、被告が本件事故現場を徒渉する選択をしたことについて、注意義務の違反を認めることはできない。

次に徒渉方法について検討するに、前記認定のとおり、当時、事故現場は若干の増水があり、水流も速かったため、被告、A及びBの3名が協議し、被告、A及びBの3名が下流側で待機して、女性3名の徒渉を援助しようとしたことか認められるところ、右増水の程度や水深については、既に検討したとおりであり、確かに若干の増水があったことが認められるものの、A及びBの立っていた位置における水位が、Aらの腰の位置程度にまで深かったとは認められない。

そして、

Aは沢登りの経験はなかったものの、消防士として水難訓練などにも参加しており、また、Bも2週間ほど以前に沢登りを経験しており、両者ともそれなりに徒渉の危険性を判断する能力を有していたと考えられること、

A及びBは、いずれも体格が良く、被告を上回る身体能力を有していたと考えられること、

A及びBにおいても、右のような方法で徒渉することについて、重大な危険はないと判断し、むしろ、積極的に女性3名の徒渉を助けることを意識して、右のような徒渉方法に賛成していたと認められること、

以上の諸点を考慮すると、前記のような徒渉方法を取ったことについて、重大な危険を無視した行動であったとまでいうことはできず、被告に、その点の注意義務の違反を認めることはできない。

4 人工呼吸の方法について

原告らは、被告らの行った人工呼吸の方法が、気道確保等の点において、不適切であったと主張するが、被告らの人工呼吸の方法が適切であったか否かを現時点で検証することは極めて困難であり、本件の全証拠によっても、被告らの人工呼吸の方法が不適切であったとか、また、その不適切であったことが原因でAらを救命することができなかったと認めるには十分ではない。

また、仮に、被告らの行った人工呼吸の方法が不適切であったとしても、前記のとおり、本件沢登りは、被告が他の参加者を引率して行ったものではなく、知人同士の自主的なレジャーとして行われたものであってみれば、その参加者の一人である被告が、人工呼吸の方法を完全に会得していなかったとしても、そのことをもって注意義務の違反と認めることはできない。

四 結論
以上に検討した次第で、本件事故について、被告の注意義務違反の不法行為を認めることはできず、したがって、原告らの請求はいずれも理由がないものである。

○○地方裁判所民事第一部
裁判官 倉澤千巌

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